帰れ

2006年9月6日 お便り
これは私が以前つきあっていた人から聞いた彼の実体験です。

割と現実主義で、怪談などの類いの話しに自ら首を突っ込むようなタイプではない人だったのですが、ある日一緒にテレビでやっていた怪談特集のようなものを見ていて、突然思い出したように「そういえばさ…」と、次のような話しをしてくれました。

10年くらい前のことです。当時彼は小樽に住んでいました。バイクに乗るのが趣味でよく友人達と一緒に遊びにいっていたドライブコースがある山があったそうで、(観光地によくありますよね)彼は一人でもよく頂上まで走りにいっていたそうです。

その山は地元でもあまりよくない噂があり、彼の友人の何人かも頂上でエンジントラブルが起った、山からの帰途で事故を起こした等々で、よくまわりから「危ないからおまえあんまり一人でいくなよ」と注意されていました。しかしながら、そもそも単独行動が好きなうえに今まで何度も行ってて何ごともなかったことから、はなから友人達の警告を無視してその日も夜中に一人でバイクに乗って出かけたそうです。

時間は真夜中を過ぎていました。

ハンドルを操作しなから急カーブを幾度も切り返し、頂上までは何ごともなく辿り着きました。山の頂上にはドライブインがあり、昼間は観光客などで結構にぎわっていますが時間が時間なだけにあたりはしんと静まり返り、少ない街灯が駐車場のところどころを照らしているだけで私からしてみればそれだけで充分うす気味悪い光景です。
その駐車場の奥になぜかずっと閉鎖されたまま放置された建物があり、彼はその門の前でバイクを止めしばらくぼんやりとたばこを吸っていたそうです。
2、3本吸った後急に背中がぞくりとするような寒気を感じ、その時彼は”こんな山の上だし夜中だから冷えて当然”程度にしか考えていなかったようで、どうということもなくバイクに戻ってエンジンキィをまわしました。

エンジンがかからない。

何度ふみこんでもうまくゆかず、そうこうしているうちに雨がふってきたそうです。
左足のすねに痛みを感じはじめたのはその頃でした。
閉鎖された建物の金属の門が風でカチャカチャとせわしなく音をたてていて、まるでそこの空気全体が彼に「帰れ」といわんばかりの雰囲気だったそうで、さすがに彼も「ちょっとやばいかなぁ」と感じはじめ、どうにかこうにかエンジンがかかったのがそれから10分ほどたった頃のこと。その頃には、かなりの雨になっており、彼は滑らないように、でもできる限りスピードを出して下まで下りてきたそうです。

どうにか自宅に辿り着き、一息ついたところで左足の鋭い痛みに気付き、「どっかでぶつけたのかな…」とGパンの裾をめくってきたところ…

彼の左足のすねには17、8cmほどの長さに渡り、ひざから足先の方向でくっきりと矢印の形で真っ赤な火傷のような傷ができていたそうです。
その傷跡を私も見せてもらい、はっきりいってぞっとしました。見事な矢印の形でそこだけハゲており床に向かってまっすぐ伸びているのです。

ここだけ毛がはえねーんだよな、なんて彼はのんきに笑っておりましたが、正直、あの傷の大きさは無気味です。だってあの下に向かって伸びる矢印はどう見たって「帰れ」という警告だったとしか思えないでしょう…?

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